つむぐ体験談

難病と診断されて、好きなことが楽しめなくなった時。心と体を動かす「無理のない」一歩の踏み出し方

Tags: 難病, QOL, 趣味, 心のケア, 一歩

診断後、好きなことから遠ざかっていった日々

難病と診断されてすぐの頃、心身の不調に加え、これからどうなっていくのだろうという漠然とした不安から、以前のように好きなことを楽しむ気力が湧かなくなっていきました。趣味だった外出も、友人との食事も、体力や症状を考えると億劫になり、次第に誘いを断ることが増えていきました。

家にいる時間が増え、体調が安定しない日はベッドの上で過ごすことも多くなりました。SNSを見れば、周りの友人たちは旅行に行ったり、趣味を楽しんだりしている投稿ばかりが目に映ります。それを見るたびに、「自分だけ置いていかれてしまった」「もう以前のような生活はできないんだ」と感じ、悲しみや焦り、そして孤独感が募っていきました。

好きなことが楽しめない自分は価値がないように感じてしまい、ますます何かをしようという気持ちが失われていく。そんな負のスパイラルに陥っていることに気づいた時、このままではいけないと強く思いました。

「できない」理由ばかり探していた自分に気づく

なぜ、こんなにも行動するのが億劫になってしまったのだろうか。そう自分に問いかけてみた時、いくつかの理由があることに気づきました。

一番大きかったのは、体調への不安でした。「もし途中で具合が悪くなったらどうしよう」「疲れてしまって、後で寝込んでしまったら困る」。そんな心配が先に立ち、行動を起こす前に諦めてしまうのです。また、以前のようにスムーズに動けない自分を誰かに見られたくない、という気持ちもありました。

そして、体力や気力が落ちたことで、以前できていたレベルのことはもうできない、という思い込みもありました。例えば、好きなアーティストのライブに行くのは体力的にも難しいだろう、と思っていたのです。完璧にできなければ意味がない、という考え方も、私の一歩を重くしていました。

これらの「できない」理由を並べることで、行動しない自分を正当化していたのかもしれません。しかし、心の中では、好きなことを諦めたくないという思いがくすぶっていました。

「無理のない」一歩を踏み出すための具体的な工夫

この状況を変えるためには、まずは「完璧でなくても良い」「できることから少しずつ」という考え方を取り入れる必要があると感じました。そして、心と体を少しでも動かすための具体的な工夫を始めました。

1. 「〇分だけ」「〇つだけ」の小さな目標設定

以前のように長時間外出したり、複雑な趣味に取り組んだりするのは難しくても、「まずは5分だけ近所を散歩してみよう」「好きな曲を3曲だけ聴いてみよう」のように、ごく短い時間や少ない回数で達成できる目標を設定しました。

この「〇分だけ」「〇つだけ」という小さな目標は、心理的なハードルを大きく下げてくれます。たとえ体調が優れなくても、「これくらいならできるかもしれない」と思えるのです。そして、実際にやってみると、想像していたよりも気分転換になったり、達成感を得られたりすることに気づきました。

2. 環境を整える、計画を立てる

外出が億劫な時は、家の中で楽しめる環境を整えました。例えば、心地よい音楽を流したり、好きな香りのアロマを焚いたり。読書が好きなら、快適なソファや照明を用意するのも良いでしょう。

また、もし外出を試みるなら、事前に無理のない範囲で計画を立てるようにしました。移動手段を事前に調べたり、休憩できる場所を確認しておいたり。誰かと一緒に行く場合は、体調が悪くなったらすぐに帰れるように伝えておくなど、安心して行動するための準備をすることで、不安が和らぎました。

3. 体調に合わせた新しい「好き」を探す

以前のようにアクティブな趣味は難しくても、今の体調に合った新しい楽しみ方はないか探してみました。例えば、短時間でできる軽いストレッチやヨガ、自宅で楽しめる塗り絵や手芸、オンラインでの学習などです。

「難病と共にできること」という視点で探してみると、意外にもたくさんの選択肢があることに気づきました。これは、失ったものに目を向けるのではなく、今できることに目を向けるという視点の転換でもありました。

4. 誰かに話してみる、共感できる場所を探す

「何もする気が起きない」「億劫で動けない」という気持ちを一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人に話を聞いてもらうことも助けになりました。話すことで気持ちが整理されたり、共感してもらうことで孤独感が和らいだりしました。

また、同じ病気や似たような状況にある人の体験談を読むことも、大きな励みになりました。「自分と同じように苦しんでいる人がいる」「それでも工夫して前向きに過ごしている人がいる」と知ることは、「一人じゃないんだ」という安心感につながり、小さな一歩を踏み出す勇気を与えてくれました。

小さな一歩が連れてきてくれた変化

これらの「無理のない」工夫を一つずつ試していくうちに、少しずつ変化が現れ始めました。

毎日たった数分でも外の空気を吸うことで、気分がリフレッシュされるのを感じました。好きな音楽を聴くだけでも、沈んでいた心が少し軽くなるのを感じました。体調に合わせて見つけた新しい趣味は、思っていた以上に楽しく、夢中になれる時間を与えてくれました。

最初の一歩は確かに重たいものでしたが、小さな一歩でも踏み出してみることで、得られるものがあることを実感しました。完璧にできなくても、以前と同じようにできなくても、少しでも心や体が動かせたという事実が、自信を取り戻すきっかけになりました。

病気と共に生きるということは、以前の自分と同じようにはいかないことがたくさんあります。しかし、「できないこと」ばかりに囚われず、「今の自分にできることは何か」に目を向けることで、新しい楽しみ方や、自分らしいペースを見つけることができるのかもしれません。

困難な中でも、あなたらしい「好き」を大切に

難病と診断されて、以前のように好きなことが楽しめなくなり、家に閉じこもりがちになってしまうのは、決してあなただけではありません。体調の波や先の見えない不安の中で、行動を起こすのが億劫になるのは当然のことです。

焦る必要はありません。まずは、今のあなたの心と体の声に耳を傾けてみてください。そして、もし少しでも何かをしたいという気持ちが芽生えたら、ほんの小さな一歩から試してみてはいかがでしょうか。

それは、お気に入りの飲み物をゆっくりと味わうことかもしれません。窓を開けて、心地よい風を感じることかもしれません。あるいは、ただ好きな音楽を聴くだけのことかもしれません。

完璧を目指さなくて良いのです。できた自分を褒めてあげてください。もしうまくいかなくても、そんな日があっても大丈夫です。

難病と共に生きる日々の中でも、あなたの心を満たしてくれる「好き」はきっと見つかります。無理のないペースで、あなたらしい一歩を大切にしてみてください。そして、あなたが心満たされる時間を過ごせるよう、心から願っています。