病気で変わった「好き」との向き合い方。失ったものを乗り越え、見つけた新しい喜び
診断後、生活は一変しました。それまで当たり前だったこと、大切にしていた時間、そして何よりも大好きだった「趣味」や「楽しみ」ができなくなった時、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
大好きだった「当たり前」ができなくなった時
私の場合は、体を動かすことが好きでした。週末には友人とテニスをしたり、仕事帰りにはジムに通ったり。汗を流して心身ともにリフレッシュすることが、私にとって欠かせない時間だったのです。しかし、診断を受けて医師から運動制限を告げられた時、目の前が真っ暗になりました。
もちろん、病状を悪化させないためには必要なことだと頭では理解しています。でも、長年続けてきた習慣、自分の一部だと思っていたものが失われた喪失感は、想像以上に大きいものでした。「もう、以前のような自分には戻れないんだ」という悲しみや、「他の人と同じように楽しめない」という孤独感に苛まれました。
家でじっとしている時間が増えると、「あの頃は良かったな」と過去を振り返ってばかり。周りの友人たちが楽しそうにスポーツをしている様子をSNSで見かけるたびに、自分だけが置いてけぼりにされたような、取り残されたような気持ちになりました。
過去を嘆く日々から、小さな一歩を踏み出すまで
「このままではいけない」そう思ったのは、ある日、あまりにも何もやる気が起きず、ただ時間だけが過ぎていくのを感じた時でした。失ったものばかりに目を向けていても、現実は何も変わりません。今の自分にできることは何だろう? 過去の「好き」にとらわれず、新しい「好き」を見つけることはできないだろうか? そう考えるようになりました。
とはいえ、すぐに「これだ!」というものが見つかるわけではありません。以前のように体を動かすことは難しい。長時間の集中も、体調によっては負担になる。まず何から始めれば良いのかも分かりませんでした。
試行錯誤の日々が始まりました。昔少しだけ興味があったけれど手が出せなかったこと、友人から勧められたけれど「自分には無理」と決めつけていたこと。体調が良い日を選んで、無理のない範囲で色々なことに挑戦してみることにしました。
例えば、短い時間でできるオンライン講座を受けてみたり、座ってできる手芸を試してみたり、近所の公園をゆっくり散歩してみたり。どれも最初は「これで本当に楽しいのかな…」と半信半疑でした。すぐに飽きてしまったり、体調が悪くて中断せざるを得なかったりすることもありました。
新しい世界を開いてくれた「小さな発見」
そんな中で、いくつかの「小さな発見」がありました。
一つは、ベランダでハーブを育てることでした。以前は全く興味がなかったのですが、小さな芽が出て育っていく様子を観察するのが日課になり、収穫したハーブを料理やお茶に使うのが楽しみになりました。派手さはありませんが、植物の生命力を感じながら、穏やかな時間を過ごせるようになりました。体調が悪くても、椅子に座って水やりをするだけでも気分転換になりました。
もう一つは、オンラインで開催される読書会に参加したことです。同じ本を読んだ人たちと感想を語り合うのは、新鮮で刺激的でした。外出が難しい日でも自宅から参加できますし、読書という自分のペースでできる活動と、人との交流が良いバランスだと感じました。共通の話題で話せる人がいること、新しい考え方や視点に触れることは、孤独感の解消にもつながりました。
どちらも、以前のように「体を動かすこと」とは全く違う種類の楽しみです。派手な達成感があるわけでもありません。でも、これらの新しい活動を通して、私は失ったものばかりに目を向けるのではなく、「今、自分にできること、楽しいと感じられること」に意識を向けることができるようになりました。
これらの新しい楽しみを続けるためには、体調管理が欠かせません。無理な計画は立てず、その日の体調に合わせて柔軟に変更することを自分に許しています。また、家族にも「今日は少し疲れているから、ハーブの手入れだけにするね」などと伝えることで、理解を得ながら自分のペースを守るようにしています。
まとめ:失った「好き」は、新しい「好き」と出会うための道標かもしれない
難病と共に生きる中で、以前のようにできなくなったこと、諦めなければならないことは、これからも出てくるかもしれません。それは、とても悲しく、つらいことです。
しかし、私は病気を通して、「好き」の形は一つではないことを知りました。失った「好き」に固執するのではなく、今の自分にできること、心惹かれることに目を向ける勇気を持つこと。そして、完璧を目指さず、小さなことから始めてみることの大切さを学びました。
もし今、「好きだったことができなくなってつらい」「何を楽しみに生きていけば良いのだろう」と感じている方がいたら、伝えたいことがあります。その悲しい気持ちは、決してあなた一人だけのものではありません。そして、失った「好き」は、きっとあなたに新しい「好き」と出会うための道標を示してくれているのだと思います。
無理に「何かを見つけよう」と焦る必要はありません。まずは、ほんの少しだけ、今の自分に目を向けてみてください。そして、心と体が「これならできそうかな」「ちょっと面白そうだな」と感じる小さなことに、そっと手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたの日常に新しい彩りをもたらしてくれるかもしれません。