病気と診断されて、「頑張る」の基準が変わった時:心身の声を聴き、自分らしいペースを見つける工夫
診断後の焦り。「普通」を保とうと頑張りすぎた日々
難病と診断された直後、私の心の中は混乱と不安でいっぱいでした。これまでの日常がガラリと変わってしまうのではないかという漠然とした恐れ、そして周囲に心配をかけたくない、できる限り「普通」でありたいという思いが強くありました。
特に、診断前と同じように仕事やプライベートをこなそうと、無意識のうちに「頑張る」ことの基準を高く設定してしまっていたように思います。少し体調が悪くても「気のせいだ」「これくらい大丈夫」と、心身のサインに蓋をしてしまうことが増えました。周りの友人たちが当たり前にこなしていることと自分を比べては、できなくなっていくことへの焦りを感じ、「もっと頑張らなければ」と自分を追い詰めることもありました。
ですが、この「頑張りすぎ」は、体にも心にも大きな負担となりました。無理がたたって体調を崩し、思うように動けなくなることも増えました。また、心の中では常に不安や焦りがくすぶり、自分自身に対して否定的な気持ちを抱きやすくなっていたように思います。このままではいけないと、漠然と感じ始めていました。
立ち止まるきっかけと、「頑張る」の基準の見直し
そんな私が立ち止まるきっかけとなったのは、ある時、主治医の先生に「体調が悪い時は、無理せず休むことも治療の一つですよ」と言われたことです。また、病気について正直に話した友人から「頑張りすぎなくていいんだよ。あなたが健康でいてくれることが一番だよ」という温かい言葉をもらいました。
これらの言葉は、私にとって大きな気づきを与えてくれました。「頑張る」ことの定義を、これまでの「病気があることを感じさせないようにする」や「人並みに全てをこなす」というものから、「自分自身の心と体の声に耳を傾け、大切にすること」へと見直す必要があるのではないか、と考えるようになったのです。
病気と共に生きるということは、診断前と同じように「頑張る」こととは違うのかもしれない。これからは、完璧を目指すのではなく、自分のペースで、心と体が喜ぶ選択を大切にしていこう。そう考えることで、少し肩の力が抜けたのを覚えています。
心身の声を聴き、自分らしいペースを見つける具体的な工夫
「頑張る」の基準を見直して以来、私は自分自身の心身の声に意識的に耳を傾けることを心がけるようになりました。具体的な工夫をいくつかご紹介します。
1. 体調記録をつける
毎日の体調を記録する習慣をつけました。体温や症状だけでなく、その日の気分や活動内容も簡単にメモすることで、自分の体調の波や、どんな時に体調を崩しやすいのかを客観的に把握できるようになりました。これにより、無理を避け、休息を計画的に取る目安ができました。
2. スケジュールに「余白」を作る
以前は予定を詰め込みがちでしたが、今は意図的に「何もしない時間」や「休息時間」をスケジュールに入れるようにしています。急な体調の変化があっても対応できるよう、ゆとりを持たせることで、心に余裕が生まれ、焦りを感じにくくなりました。
3. 「〜ねばならない」を手放す練習
「これは絶対に今日中にやらねば」「人に頼んではいけない」といった自分の中の固定観念に気づき、手放す練習を始めました。できる範囲で最善を尽くせば良い、時には周囲に助けを求めても良い、と自分に許可を出せるようになり、気持ちが楽になりました。
4. 小さな変化や達成感を意識する
体調が悪かったり、思うように動けなかったりすると、どうしても「できないこと」に目が行きがちです。そこで私は、その日の体調で「できたこと」や、気分が少しでも上向いた瞬間の小さな変化に意識を向けるようにしました。「今日はここまでできた」「少し散歩できた」「美味しいコーヒーが飲めた」など、些細なことでも良いのです。これにより、自分自身を肯定的に捉えられる時間が増えました。
「頑張りすぎない勇気」がくれたもの
これらの工夫を続ける中で、私の中に変化が生まれました。それは、「頑張りすぎなくても大丈夫なんだ」という、ある種の「頑張らない勇気」を持つことができたということです。
病気と診断された当初は、自分のペースを乱されることに抵抗がありましたが、今は、病気と共に生きる自分に合ったペースを見つけることこそが、自分自身を大切にすることであり、長い目で見た時に心身の安定につながるのだと感じています。
もちろん、体調の波もあり、不安を感じる日もあります。しかし、以前のように焦りや自己否定に囚われることは減りました。心身の声に耳を傾け、自分にとっての「ちょうどいい」を知ること。そして、できないことがあっても自分を責めすぎず、できる範囲で工夫しながら日々を積み重ねていくこと。それが、病気と共に歩む私自身の「頑張る」なのだと思えるようになりました。
難病と診断されて間もない方の中には、以前との違いに戸惑い、焦りを感じている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、どうかご自身を責めすぎないでください。病気と共に生きるための新しい「頑張る」の基準は、人それぞれ、そして時間と共に変化していくものです。ご自身の心と体の声に優しく耳を傾けながら、自分らしいペースを見つけていく過程を大切にされてください。