難病と診断されて自信を失った時、少しずつ自分を肯定できるようになった道のり
難病と診断された時、多くの方が大きな衝撃を受け、さまざまな感情に揺れ動くことと思います。これまで当たり前だと思っていた日常が崩れ、将来への不安だけでなく、「なぜ自分が病気になったのだろう」「健康だった頃の自分とは違う」といった思いから、自己肯定感が低下してしまうことも少なくありません。
私も、診断を受けた直後はまさにそうでした。体調が思うようにいかず、以前は簡単にできていたことが難しくなるたびに、「自分はもうダメになってしまったのではないか」と自分自身を責めてしまうこともありました。周りの人と比べて落ち込んだり、外出する気力さえなくなったりして、孤独を感じる日々でした。
この記事では、私が難病と診断されてから、一度は失いかけた自信を少しずつ取り戻し、「病気になった自分」を受け入れられるようになるまでに経験したこと、そして実際に試して心の支えになった具体的な工夫についてお話ししたいと思います。
診断後の混乱と、自己否定に陥った日々
診断名を聞いた時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。医師からの説明は、その時は半分も頭に入ってきませんでした。家に帰ってからも、これからどうなるのだろうという漠然とした不安と、なぜ自分にこんなことが起きたのかという納得できない気持ちでいっぱいでした。
それまで健康には自信があった方でしたので、体調が不安定になり、疲れやすさや痛みといった症状が出てくるたびに、「健康だった頃の自分」とのギャップに苦しみました。仕事で思うようにパフォーマンスを発揮できない時、友人との楽しみにしていた予定を体調不良で断らざるを得ない時、そして当たり前の家事さえ億劫に感じるようになった時、「自分はもう、以前のような価値のある人間ではないのかもしれない」とさえ感じてしまったのです。
鏡を見るたびに顔色の悪さが気になり、おしゃれをする気力も失せました。外に出るのが怖くなり、家に閉じこもりがちになりました。インターネットで病気について調べれば調べるほど、予後の情報や治療の副作用などに圧倒され、さらに不安が募る悪循環に陥っていました。この頃は、まさに自己肯定感がどん底だったと言えます。
小さな気づきと、視点の変化
そんな辛い時期が続きましたが、ある時、ほんの小さな出来事がきっかけで、少しずつ心が変化していくのを感じました。
それは、かかりつけの看護師さんに、「体調が悪い時は無理せず、少しでも楽に過ごせる方法を探しましょうね。どんな小さなことでも、今日はこれができた、と感じることを大切にしてください」と言われたことです。
それまで私は、「病気になる前の自分」を基準に、「できなくなったこと」ばかりに目を向けて、自分を責めていました。でも、看護師さんの言葉を聞いて、病気と共に生きる「今の自分」の視点に立ってみよう、と思えたのです。
完璧を目指す必要はない。できないことがあっても当たり前。それよりも、「今の自分にできることは何か」に目を向けてみよう。そう考え方を変えただけで、少し肩の荷が下りたような気がしました。
自己肯定感を育むために試した具体的な工夫
そこから、私は少しずつ、病気になった自分を受け入れ、自己肯定感を育むための具体的な行動を試みるようになりました。いくつかご紹介させていただきます。
1. 「できたこと」に目を向ける習慣
これは看護師さんの言葉にヒントを得た方法です。その日体調が良ければ「午前中に掃除ができた」、少し疲れていても「きちんと朝ごはんを食べられた」「お気に入りの音楽を聴いてリラックスできた」など、どんなに小さなことでも良いので、できたことをノートに書き出したり、心の中で数えたりするようにしました。
「できないこと」ばかりに意識が向きがちでしたが、「できたこと」を意識的に探すことで、自分にもできることがあるのだ、という小さな自信を積み重ねることができました。体調が特に悪い日は、「ただ息をしているだけでも素晴らしい」と自分を許すようにしました。
2. 自分を労うための「小さなご褒美」
体調が良い日や、何か一つでも目標を達成できた日には、自分に小さなご褒美をあげることを習慣にしました。これは高価なものでなくても良いのです。
例えば、 * 好きな香りの入浴剤を入れてゆっくりお風呂に入る * 普段は買わない少し良いスイーツをいただく * 読みたかった本を少し読む時間を作る * 短い時間でも、ベランダで外の空気を吸う
こうした「小さなご褒美」は、「病気で大変な自分」を労り、大切に扱ってあげるための儀式のようなものでした。自分を大切に思えるようになることは、自己肯定感を取り戻す上でとても大切なステップだと感じています。
3. 信頼できる人との繋がりを大切にする
診断を受けた直後は、病気のことを誰にも知られたくない、弱い自分を見せたくないという気持ちが強く、周りの人との交流を避けていました。しかし、孤独な状況は、自己否定の気持ちをさらに強めてしまうことに気づきました。
勇気を出して、本当に信頼できる家族や友人に正直な気持ちを話してみた時、受け止めてもらえた経験は、大きな心の支えになりました。病気そのものの知識がなくても、ただ「話を聞いてくれる」「そばにいてくれる」というだけで、一人ではないと感じることができました。
また、同じ病気や似た状況の患者さんの体験談を読むこと、あるいは患者会やオンラインコミュニティなどで交流することも、孤独感を和らげ、共感を得る上で非常に有効だと感じています。
4. 病気以外の「自分の価値」を再認識する
病気になると、自分の全てが「病気であること」に支配されてしまうような感覚に陥ることがあります。しかし、私は病気である以前に、一人の人間です。仕事で培ってきたスキル、長年続けている趣味、大切にしている人間関係など、病気とは関係なく自分が持っているもの、大切にしているものを改めて見つめ直す時間を持つようにしました。
病気によって制約ができることは確かにありますが、自分の全てが失われたわけではありません。病気以外の自分の価値を再認識することは、「病気になった自分」も含めて、自分という人間全体を受け入れる上で大切なことだと感じています。
完璧な自分を目指す必要はない
病気と共に生きる中で、体調が良い日もあれば悪い日もあります。自己肯定感が高まる日もあれば、また落ち込んでしまう日もあるでしょう。それは当たり前のことです。常に前向きでいなければならない、完璧に病気を受け入れなければならない、と自分を追い詰める必要はありません。
大切なのは、どんな自分も否定せずに受け止めることです。辛い時は辛いと認めること。そして、小さなことからでも良いので、今の自分を少しでも大切にする行動を続けていくことです。
病気になったことで、見え方も変わりました。以前は気づけなかった小さな日常の幸せに気づけるようになったり、本当に大切なものは何かを考えたりするようになりました。それは、病気という困難を通して得られた、私なりの成長だと感じています。
最後に
難病と診断されて間もない頃は、不安や混乱の中で、ご自身のことを責めてしまったり、自信を失ったりすることがあるかもしれません。でも、どうかご自身を責めないでください。それは弱いからではなく、大きな変化に適応しようとしている証拠だと思います。
病気になった自分を受け入れ、自己肯定感を保つ道のりは、時に険しく感じることもあるでしょう。しかし、焦らず、ご自身のペースで、小さな一歩を積み重ねていくことで、必ず視界が開けてくる瞬間が訪れると信じています。
あなたは一人ではありません。そして、今のあなたにもたくさんの価値があります。この記事が、同じような状況にある方の、ほんの少しでも心の支えになれば幸いです。